研究対象の疾患

リンパ脈管筋腫症(LAM)

■主任研究者
北海道大学大学院医学研究院内科学分野呼吸器内科学教室/鈴木 雅
新潟大学医歯学総合病院魚沼地域医療教育センター/高田俊範

薬効機序

リンパ脈管筋腫症(LAM)は、主に妊娠可能年齢の女性が罹患するまれな進行性嚢胞性肺疾患である。LAMは、結節性硬化症(TSC)に伴って発生するTSC-LAMと、単独で発生する孤発性LAMとに分類され、血管筋脂肪腫(angiomyolipoma, AML)を合併することもある。LAMでは、LAM細胞という平滑筋様細胞が肺で増殖し蛋白分解酵素を産生するため、肺が破壊されて嚢胞を形成する。また、LAM細胞は肺内で転移しそれぞれの転移巣で嚢胞を形成するため、緩徐に肺機能が低下し呼吸不全に陥る。

LAM細胞では、mTOR(mammalian target of rapamycin)を抑制するツベリンあるいはハマルチンに異常がみられる。これらの異常によりmTORが恒常的に活性化され、LAM細胞が増殖を続けることからLAMを発症する1)。シロリムスは、mTOR蛋白の働きを抑制しLAM細胞の増殖を低下させることにより薬効を発揮する。

疾患における効果

はじめに、AMLの体積変化を主要評価項目とする2年間の非ランダム化オープンラベル試験が米国で行われた(CAST試験)2)。20例がシロリムスを1年間内服し、MRIでAMLと脳病変を、CTと呼吸機能検査で肺の嚢胞性病変を評価した。1年間のシロリムス内服により、AMLの平均サイズは53.2%縮小した。また、LAMを合併していた11例で、1秒量が平均118ml、努力肺活量が平均390ml増加し、残気量が平均439ml減少した。シロリムス中断後、これらの変化はいずれも治療前の計測値に近づいていた。

つづいて、中等度以上の肺病変を有するLAM患者を対象に、一秒量の変化率の差を主要評価項目としてランダム化二重盲検試験が行われた(MILES試験)3)。症例は無作為に二群に分けられ、シロリムスあるいは偽薬を12ヶ月内服した後に1年間無治療で観察された。シロリムス群46例の一秒量変化率は一月あたり1±2mlで、偽薬群43例の-12±2mlに比し有意に差がみられた。偽薬群の一秒量は、シロリムス群に比べ153ml低下していた。1年間の無治療観察期間中、シロリムス群の呼吸機能は再び低下して偽薬群の変化率と同じになった。

さらに、本邦のLAM患者を対象として“LAMに対するシロリムス投与の安全性に関する多施設共同治験(MLSTS治験)”が実施された4)。本試験により、本邦LAM症例が2年間シロリムスを内服してもMILES試験とほぼ同様(項目、頻度)の有害事象である、%FEV1が70%未満の症例では12月以降も呼吸機能を安定させる効果が持続する、%FEV1が70%以上の症例でも呼吸機能を安定させる効果が2年間持続することが明らかになった。

文献

1) J Clin Invest 2012;122:3807-3816.
2) N Engl J Med 2008;358:140-151.
3) N Engl J Med 2011;364:1595-1606.
4) Ann Am Thorac Soc 2016;13:1912-1922.

関連リンク

リンパ脈管筋腫症(LAM)は、妊娠可能な年代の女性100万人あたり5人の割合で発症する非常に稀な疾患である。このような希少肺疾患は、診断や治療に関する情報が少なく国内における実態も明らかではない。また、診療機会や情報の乏しさから有効な治療法が確立していない。
国内の希少肺疾患の全体像を把握し理解するため、診断確定症例を登録して経年的にデータを蓄積する公的データベースが必要である。一時期の横断的データ集積ではなく継続的にデータを登録することを目的として、LAMとα1-アンチトリプシン欠乏症の症例登録制度が開始された。
■希少肺疾患登録制度〜リンパ脈管筋腫症とα1-アンチトリプシン欠乏症
https://lamaatd.com

2014年7月4日、世界に先駆けてシロリムスがLAMを適応症として承認された。これをきっかけとして、LAMに関する情報、LAMに対するシロリムスの効果、シロリムスを用いた研究、シロリムス承認までの道のり、および関連する研究論文や資料を扱うホームページが開設された。
■リンパ脈管筋腫症(LAM)に対するシロリムスの臨床研究
http://www.bmrctr.jp/lam/