シロリムスについて

シロリムスの副作用

ここでは、「肺リンパ脈管筋腫症(LAM)」に対して行われたMLSTS治験での例を元に、それぞれの副作用とその対策について紹介します。

(1)口内炎

シロリムスを内服した半数以上の症例で、口内炎がみられます。大半は軽症ですが、予防のため口内炎が発現する前から

  1. 1日3回以上の含嗽(うがい)による口腔内保清、保湿および消炎鎮痛
  2. ブラッシング(歯みがき)等の口腔ケア

を継続します。うがいには、アズノール®うがい液などを使用します。

こうした予防にも関わらず口内炎が発症した場合は、痛みの程度によって、局所麻酔薬による含嗽のほか、アセトアミノフェンまたは非ステロイド性抗炎症薬、麻薬系鎮痛薬、副腎皮質ホルモン剤などを使用します。重篤なものは少ないのですが、痛みで経口摂取が減少するような場合はシロリムスの休薬や減量を検討します。

(2)ざ瘡様皮疹

頭部、顔面、前胸部、下腹部、大腿などに、毛孔に一致してニキビ(ざ瘡)のような紅色の丘疹や膿疱がみられます。ニキビ類似の発疹ですが、ニキビと異なり細菌感染を伴わない場合もあります。症状に応じて、抗生物質やステロイド外用剤が使用されます。

(3)脂質異常

シロリムスが抑制するmTORは細胞の代謝に関わるため、シロリムス内服によりさまざまな代謝異常がみられることがあります。特に多いのが、脂質異常(高コレステロール血症)です。定期的に血清脂質検査を行ない、食事療法やスタチンなどの薬物療法を行います。これらの治療でも改善しない場合は、シロリムスの減量や休薬を検討します。
MLSTS治験では、シロリムス内服前に6人の方が高脂血症に対してスタチンを内服していましたが、治療終了時には15名の方が内服していました。内服治療により、15名中13名で高脂血症の改善がみられました。一方、シロリムス内服前には高脂血症がなかった57名のうち、治療終了時にも高脂血症がなかった方は20名(7名は途中で試験から抜けています)でした。まとめますと、シロリムスをのむとおよそ6人のうち4人に高脂血症がみられ、あたらしく高脂血症になった4人のうち3人は食事療法、残りの1人は高脂血症に対する治療薬(スタチン)を内服することになる、という結果でした。

(4)間質性肺疾患

もともとLAMの方は呼吸機能が低下していることが多く、日本人は欧米人に比べ薬剤性間質性肺疾患になりやすいことから、シロリムスによる間質性肺疾患はもっとも注意すべき副作用です。自覚症状としては、乾性咳(痰を伴わない咳)、呼吸困難、発熱等がみられますが、胸部レントゲンやCT写真の異常だけで自覚症状を認めないこともあります。シロリムス内服開始前に胸部CT検査を行い、咳嗽、呼吸困難、発熱等の症状がないことを確認してから、シロリムスの内服をはじめる必要があります。またシロリムス内服後は、定期的に胸部CTを撮影すること、呼吸器症状に変化がみられた場合は胸部CTの変化を確認すること、胸部レントゲンやCTで新規の陰影、特に間質性陰影がみられた場合は、間質性肺疾患の鑑別を行い、早めの対応をすることなどが重要となります。

MLSTS治験では、3名の方にシロリムスによると思われる間質性肺疾患がみられました。シロリムス内服から間質性肺疾患発症までの期間は1.5ヶ月から11ヶ月までとまちまちですが、3例とも胸部CTで新たなすりガラス影がみられました。しかし、3名ともシロリムス休薬とステロイド薬などの治療により回復しています。

(5)感染症

シロリムスは免疫抑制作用があるため、感染症、特に弱毒病原体による日和見(ひよりみ)感染症を発症する可能性があります。またLAMの方ではありませんが、シロリムス内服中にB型肝炎ウイルスが活性化され重篤な肝障害に陥った例も報告されています。そのため、治療開始前には全例HBs抗原のスクリーニング検査を行います。その結果、もし過去のB型肝炎ウイルスが疑われた場合、「免疫抑制・化学療法により発症するB型肝炎対策ガイドライン」に従った対応をとります。

これまであまり気が付かれていなかった副作用

シロリムスが抑制するmTORは、細胞の成長や増殖に関わっています。そのため、シロリムスは全身の様々な臓器、たとえば骨格筋、肝、膵、脂肪組織などに影響を及ぼします。MLSTS試験では、63人中33人で体重減少がみられました。ただし減少の程度は軽く、食欲が低下した方はひとりもいませんでした。また、シロリムス内服24ヶ月で収縮期血圧が平均9.6mmHg、拡張期血圧が5.9mmHg上昇しました。このうち5人は高血圧症と診断され、降圧剤の内服を開始しました。