シロリムスとその効果
概要
シロリムス(ラパマイシン:基礎の論文ではこちらを用いることが多い)はイースター島(現地語でラパ・ヌイ)の土壌細菌から単離された、抗真菌作用を持つマクロライド化合物です。
免疫抑制剤として腎移植後に広く用いられているほか、再狭窄の防止の目的で冠動脈ステントのコーティング剤としても使われています。
また、リンパ脈管筋腫症(LAM)に対する薬剤としても認可されており、ラパマイシン誘導体(ラパログと総称される)の一つであるエベロリムスは結節性硬化症の薬として認可されています。
ラパマイシンはFKBP12という蛋白質と複合体を作り、mTOR(mammalian target of rapamycin)というセリン・スレオニンキナーゼに結合して活性を阻害します。つまりmTORの過剰な活性化によって起こる疾患に対して効果が期待されます。
mTOR(MTOR: mechanistic target of rapamycinとも言われます)は細胞の成長を司るキナーゼで、細胞容積の増大や細胞増殖を促します。下記の図にあるように栄養素(アミノ酸)や増殖因子によって活性化され、蛋白合成の促進、蛋白分解(オートファジー)の抑制、脂質や糖の代謝を制御することによって、細胞を成長、増殖させています。
この経路が異常に活性化されると様々な疾患に結びつきます。結節性硬化症は原因遺伝子であるTSC1、TSC2の機能喪失変異によって引き起こされます。TSC1、2は複合体でmTORの活性を抑制します(図)。結節性硬化症ではこの抑制が外れることによりmTORが活性化し、多くの臓器で腫瘍が生じます。
LAMに関してもTSCの変異でmTORが暴走し、平滑筋様細胞が増殖してしまいます。シロリムスや誘導体は、mTORの活性を抑えることによって異常な細胞増殖を抑える働きがあります。シロリムス溶出ステントに関しても同様で、血管平滑筋の増殖による再狭窄を抑える作用があります。
結節性硬化症は遺伝性の疾患ですが、多くの腫瘍や限局性皮質形成異常(FCD)、片側巨脳症などでは、mTORあるいは図にあるようなmTORシグナル系の分子の体細胞変異が報告されています。腫瘍やFCDではmTOR自体の活性化型変異が見出されており、シロリムスの有効性が期待されています。